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「おや珍しい、君が瞬間接着剤以外のものをつけてるなんて」

「うっせぇ」



靴を履きかえることすら面倒くさい朝の昇降口で開口一番に新羅に嫌味を言われて、思わず下駄箱の扉をベコリと歪めてしまった。あーくそ、気をつけてたのに。



「一晩経っても傷が残ってるなんて珍しいね?」

「ドラム缶が爆発するとは思ってなかったんだよ」



ぶっきらぼうに返事をしてさっさと上履きに履き替え、まだ何か言ってくる新羅を無視してスタスタと廊下を進んだ。

登校ラッシュでめちゃくちゃ賑わってる廊下なのに、俺が通ると自然と空くスペース。歩きやすくていいじゃないかなんて新羅は笑いながら言うけど、一体何が良いんだ。
卒業までには慣れようと決めたこの距離感に耐えるべく、俺は唇を噛みしめた。



「…あれ、これ昨日の手当てのままなの?」

「あ?…なんで」

「随分綺麗にしてあるなぁと思って」



ようやく俺に追いついてきた新羅が首元に貼られたテープに触れる。いつも接着剤だの何だので適当に処理してるから珍しいんだろう、新羅はまじまじと観察した後でクイッと眼鏡を整えた。



「もしかして昨日の手当てから触ってないの?もう塞がってるんじゃ」

「剥がれねぇから放ってるだけだ」

「随分大人しく手当て受けてたもんねぇ」



いい加減調子に乗って来た新羅の顎を、偶然を装って下からはね飛ばす。ぐぇ、という声と共に、ようやく静かになる右隣。俺は教室に向かいながら、昨日の放課後の事を思い出していた。





ノミ蟲との必死の鬼ごっこを終えてまたしても見失った奴に苛つきながらも帰ろうと足を進めると、おそらく計算されつくした配置なのだろう、側にあったドラム缶が突然爆発して、俺はモロに直撃。

目の前で爆発を受ければ嫌でも傷を負う身体すら大して痛くもなかったから、そのまま帰ろうとしたらさすがに新羅に止められて。

不在の時の方が多いって有名な保健室で新羅に手当てしてもらおうと思って足を向けたそこに居たのは、



『あら、初めてのお客さんね』



困ったように笑う、綺麗な女の人、だった。






「そういえば昨日ウチの担任が言ってたよ、あの人、新任の校医さんなんだってね」

「…へぇ」

「あれ、随分とそっけないなぁ」

「別に興味ねぇよ」



階段を上りきったところでポツリと返事を返しながら、暑くなってきたシャツを適当に捲り上げる。その途端手首に貼られた大きなテープが目に入って来て、俺は小さく舌打ちをした。

ノミ蟲との殺し合いでケガをすることは確かに多いが、この身体のせいでいつもは大事に至る事は少ない。何かあれば新羅が適当に手当てしてくれるし、案外保健室は俺にとって馴染みの無いところだった。

たとえ、これからは昨日のあの人が常在したとしても。



「(……どうせ、)」



手首に貼られたテープを、少し爪を立ててペラリと捲る。悲しいかなそこは予想通りというか、何事もなかったかのように傷が塞がっていて。



「(俺の事知ったら、あんな)」



あんな優しい顔で笑わねぇ、と呟いて、一気にテープを引き剥がす。そのまま乱暴にまとめると、ようやく入った教室のゴミ箱に乱暴に捨てた。

ガコンと音を立てただけで一斉にこちらを向くクラスメイト。別にゴミ投げたぐらいでお前らは死なねぇよと悪態をついて、わざと大きく椅子に腰かけた。


俺が触ったら折っちまいそうな細長い指で貼られたテープの跡をぼんやりと眺める。君は何組の誰かな?と、すこし早口で聞いてくる彼女の名前は、確か。



「(あ、くそ、聞いとけばよかった…)」



興味ないと言ったくせに少し後悔している自分に気付かないまま、俺は一限目の教科書を机から探る。

ドサリと机の上に広げた瞬間のいつものチャイムよりも少し早い時間に、たまに鳴る校内呼び出しが響いた。



『校内放送です、以下の生徒は──…』

「(この声、)」



ブツブツとノイズ混じりでもすぐに分かる、少し早口な彼女の声。昨日は白衣も上履きもないって言ってたけど、今日から正式に仕事してんだな──…と俺の頬は何故か緩められた、けれど。



『オリハライザヤくん、至急保健室まで』



続くその名前を聞いたと同時に眉間に大きく皺が寄るのを、俺はどういう訳か少しも我慢出来なかった。















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あ、コレ臨也くんシリーズですのでご注意を!
静雄さん視点でも書いておかないとごっちゃになってしまいそうでしたので…
昨夜の静雄さんは本当は手当てはがすの勿体なくて、お風呂とか気を遣って入っていればいい^^そんな静雄さんは公式で年上趣味^^


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