刀剣乱舞

□手中の贖罪
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この本丸に顕現して半年になった。主は聡明で慈悲深く、同輩も概ね気のいい連中だ。
主君の片腕となるべく粉骨砕身した甲斐あって、俺は近侍を命じられた。
傍近くに侍る様になり、色々と分かった事がある。
主は普段、殆ど肌を晒さない。首まで覆う服に着物を引っ掛け、身体の線も判らない程だ。寒いのが苦手との事だったが、春の温かい日などは冷たい水に脚を浸して辛そうにしている。
手首に痣が浮いていたり、うなじに傷があるのを見た事もある。
この本丸に、加虐趣味のある情人でもいるのだろうか。その考えはやけに気持ちを落ち着かなくさせたが、主の性癖がどうであれ、俺は俺の役目を全うするだけだ。
そんなある夜の事だった。

「……主? お加減でも悪いのですか?」

不寝番を勤めていると、主の寝所から声がした。
返答はなく、か細い呻き声だけが微かに聞こえる。よほどお悪いのかと無礼覚悟で入室しようとして、はたと思い至る。これはもしや色事の方か。しかし、他者の出入りなどなかった筈だ。
少し迷ったが、本当に体調がお悪いのかも知れないと、そっと襖を開けて中の様子を伺った。
短刀程ではないにしろ、内刀は夜目が利く。暗がりの中、褥に横たわった主の姿が淡く浮かび上がる。
しどけなく乱れた夜着の下で、何かが蠢いていた。その度に、主の身体がひくりと震える。

御自身で慰めていらっしゃるのか? いや、しかし……

何かがおかしい。

「んん……ッ」

くぐもった声が聞こえ、仰け反る主の口元に何かが張り付いているのが見えた。

あれは、手、か……?

それはまさしく怪異だった。
所々血に染まった白手袋に包まれた男の手が――手首のみが、清らな女体を大蜘蛛の如く這い回っている。
愛しげに肩を撫で下ろしたかと思えば、長い髪を乱暴に掴んで床に伏せさせる。夜着から覗く白い背には、幾筋も紅い爪痕が走っていた。豊かな乳房を痕が付く程に握り締め、か細い悲鳴を上げさせる。柔らかな腿に食い込んだ手が、強引に細い脚を割り開いた。

咄嗟に口元を押さえる。
あれは何だ。何故主はされるがままなのか。
異様な光景に、しかし目が離せない。
主の朱唇が助けを求める様に戦慄く。

「許して……」

長谷部。

思いがけない言葉に肩が揺れる。しまったと思った時にはもう遅く、ガタリと襖が音を立てた。
しん、とその場が静まる。
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