戦国・三国夢枕

□赤と青
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少しのぼせてしまった風呂上がり。私はこちらの世界に意図せず持ち込んでしまったタオルで濡れた髪の水気を拭き取っていく。

この時代の旅館にある風呂の形式は中々に落ち着かないものだったが、最近ではすっかり慣れてしまったからもう大丈夫である。私は身体の疲れを取る方法というのを早めに吸収して、歩き疲れた足を投げ出し少しくたびれた部屋の壁に背中を預けていた。
ただでさえ一緒に旅をしてる男二人に体力面で目に見えた遅れを取る私は、現代っ子特有の軟弱さで以て彼らに迷惑を掛ける場合が多い。勿論それを自覚しているからこそ弱音も吐かずにどうにか食らいついているものの・・・正直武蔵達の行軍が遅れるのは私のせいだと言って過言無いのである。

浴衣の様な物を暑さにかまけて膝まで捲り上げた私はやや風通しの悪い部屋の中で、すぐに襲ってきた蒸し暑さにに顔の前でパタパタと手を振りまくった。
今日も骨の髄まで疲れ切ったお陰で長湯してしまった足の先に、タップリと血が溜まって私の貧弱な足が白と赤の見事なコントラストを描き始めている。ああ、血ってやっぱ赤いんだなぁ・・・やや気持ち悪いぞこの光景。
ていうかここだけの紅白とかどんだけ縁起良いの!実に無価値!





「・・・綺麗、だね」

「へ?な、何がだいコジロー」

「っふふ、惚けちゃって。君の足だよ」





そんな不吉な台詞が頭の上から降ってきたので顔を上げてみると、それまで部屋の反対側に居て私の事など空気の様に扱っていた筈の小次郎がいつの間に距離を詰めたのかすぐ目の前にいて。彼はその距離からまるで戦っている最中の武蔵を見る様なうっとりとした瞳で投げ出されていた私の足を見ていた。

これには流石に背中の冷たくなる思いを感じて、私は火照った身体に満ちていた筈の血の気をザァッと引かせると身構えて体育座りのような状態になる。無意識に体が己の足を庇う格好になったのだろう。だって小次郎が武蔵じゃなく私のことを綺麗だって褒めるなんて今まで無かったんだよ・・・!?奴の綺麗=斬り甲斐のあるものって計算式になりませんでしたかそう言えば!

しかも何か呑気に茶ァ飲んでた武蔵も微妙に驚いた顔してこっち見てんだよ!ちょ、そんな顔する位なら助けて下さいませんかそこの天下無双のあなたー!!





「凄く血が溜まってるね・・・ああ・・・今切り落としたらこの色が全部噴き出すんだろうなぁ・・・」

「ヒッ・・・!やっぱり猟奇的な事言い出したよこの人・・・!」

「君色が白いからさぞかし映えるんじゃない?試しに僕が斬ってあげようか?」

「けけけ、結構ですー!これ無くしたらもう旅出来ないっていうか私は五体満足のまま現代に帰りたいから許して下さあぁい!!」

「現代現代って良く言うけどさ、僕らにとってはここが現代なんだよ?それって僕が君を斬っても良い理由にはならないかな?ねえ。」

「いやなんねーよ!わあぁスイマセン生言ってスイマセン口が滑りました!ちゅーか私斬っても刀が汚れるだけだよ!ホント!」

「大丈夫・・・今なら凄く綺麗に斬ってあげられそうな気がするんだ。身体は、川に流してあげるよ」

「・・・・・っ!!嬉しくない嬉しくない!うわあぁぁんホントに怖いんですけどこの人オォォ!!何かいつものアッパー加減に磨き掛かってるからコレエェェ!」

「あはははははは」

「・・・小次郎、もう止めてやれよ・・・」





その後もギャーだのワーだの喚いて怯えてを繰り返していたら、漸く助け船を出してくれた武蔵がやれやれといった顔で小次郎を諫めてくれた。冗談を言わない小次郎の本気過ぎる申し出に正直私は泣きそうだった。(ていうかちょっとだけ泣いてしまったよハハハヤベー何この鼻の奥がツンとする感じ!)


結局その夜は恐ろしさのあまり中々寝付けず、いつも寝相がすこぶる悪くて私と小次郎を散々蹴飛ばす武蔵との距離をやや縮めて、猫のように身体を丸めて眠りについた。武蔵の一つ向こうにいる小次郎が物凄く怖い。けど、寝ている間の武蔵の寝相にあの男にしては珍しく辟易している節のあるのを知っていた私は、それを逆手に取って逆に武蔵の近くで寝ることを試みたのである。



しかし翌朝になるまでに確実に三回は蹴飛ばされた筈の私は、余り深くに眠れなかった上に脇腹に食らった一撃が後に青痣になっているのを見て、何だかんだで何もしてこなかった小次郎より実は寝ている武蔵の方が危ない奴なんじゃないかと・・・そんなことを思ってしまった。
だってこれで骨折でもしたらマジ・・・間抜け所の話ではないじゃないですか。うん・・・

こうなりゃ両方危険人物であることに変わりはないし、今度からは出来るだけ小次郎にも武蔵にも近づかないようにして寝よう。と、ここまでに至る経緯が長すぎた事に漸く気付いた私は、そんな自分の鈍感加減にまたしても遠い目で一つ涙の雫を零すのであった。




『赤と青』



END


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斬られたら赤、蹴られたら青(笑)
何だかんだでどっちも痛い・・・



  

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